【解説】参入障壁と安月給の話 美容師業界の例
ちょっと簡単に解説してみます
何気にIT業界も完全に無関係ではないので
そしてこのブコメ
おっさん悲しいです!
だってWikipediaにちゃんと経緯が書いてるのにみんな適当なことばかり言って・・・
(規制緩和の部分)
要約するとこうです
1.戦後、理美容師がとても安定した職になった
2.安定してて、なりやすかったので皆が理美容師になった
3.安売り合戦になった
4.安売り合戦が行き過ぎると、質も落ちるので、非常に問題だ!となる
5.国にお願いして規制してもらった
6.理美容師は安定した職になった(町の床屋さんの時代)
7.1990年代にヘアサロンが盛り上がってきた
規制やめた
いちおう代わりに受験資格を高卒に縛った
8.2000年前後にカリスマ美容師が流行って、理美容師になりたい奴が増えた
9.理美容師が溢れて、安売り合戦になってきた
10.安売り合戦に適用したビジネスが出てきた
ここ数年「ヘアサロン業界やべぇ!」となってきましたが
2000年に15歳だった方が今30歳くらいなので
ちょうど良い塩梅に安月給が致命的な問題になってきているのでしょう
参入障壁が低い
参入障壁は「いかにそのビジネスを始めにくいか」という意味です
個人にも、会社にでも使える言葉です
例えば私が「医者になりたい!」と言ったら
医師免許を取るために凄い勉強して医学部に入り
6年きちんと勉強して、それから医師国家試験に合格して、研修を2年やって、ようやく医者の1年生になります
金も時間も努力もかかる上に頭も良くないとなれないので、医者は非常に参入障壁が高いです
そう言ったように、全ての職業に参入障壁がありますが
その中で理美容師業界は、参入障壁が低いビジネスです
そのため今まで規制して、参入障壁を高く(値段も高く)保っていました
参入障壁が高くなる理由
参入障壁が高くなる原因は
- 免許が必要
- お金がかかる
- 設備がかかる(機械、工場など)
- 権利が必要(漁業など)
- すごく時間がかかる
- すごい才能が要る
- すごい専門的な知識が要る
- 難しい
- 大量の人間が必要
- そもそも少人数しか要らない(芸能人、スポーツ選手など)
- 国が規制している
- お客さんが少ない
など様々ですが
理美容師はたまたまそういうのがあまりない業界なのです
だってハゲ以外はみんな利用しますし、目的はそこそこ分かりやすいですからね
人数も1人から始められます
逆に参入障壁が低くなる要因として「職業がカッコいい」「憧れる」というものがありますが、理美容師はそういう性質も持ってしまっています
みんな美容師になりたいし、なれちゃうのです
参入障壁が低い→労働者が集まる→価格競争
相場の話です
全ての売上はほとんど決まっています、増えません
例えば1億人が1ヶ月に3000円使ったら、月3000億円の売上が日本中でできますよね
これを「理美容師が何万人で分けるか」というのを考えてください
人が増えるほど1人あたりの取り分は減りますよね
どこまで減るでしょうか?
月50万円だったら、まだ参入してない人が「儲かる!」と思って理美容師になるかもしれません
じゃあ月20万円だったら? 月10万円だったら?
参入障壁が高くて割にあわないならあまり参入はないかもしれませんが
参入障壁が低かったら、もっと安月給の人が参入してくるかもしれません
そして人が増えると、今まで月50万円取れていた人が50万円稼げなくなります
それは困るので、まずは付加価値をつけようとします
そこで付加価値が付けば話はまだ良い方に向かいます
昔からやってるAさんは月50万円
新規参入したBさんは月10万円で、付加価値を付けられるように頑張りましょう
という話になるかもしれません
しかしそう上手くはいかず、皆努力すると同じくらいのスキルに落ち着いていきます
例えば10年目の人と20年目の人でどれだけ差がつくかと考えると
スキルによってはそれほど差がないものもありますよね
ひょっとしたら差があるのかもしれませんが、問題はお客さんからどう見えるかです
お客さんから、皆のスキルがどんぐりの背比べ程度に見える状態をコモディティ化と言います
そうすると、人が増えたのでもう月50万円も稼げなくなります
次にすることが安売りです
ちなみに実際はAさんより、Bさんの方が先に安売りすると思います
Aさん 1回5000円 スキル80点
Bさん 1回2000円 スキル70点
もしこうなると、Bさんの方にお客さんが行くかもしれません
だってAさんとBさんのスキルの差が見えないんですから
そしたらAさんも、値段を下げざるをえないですよね
じゃあ今度、若手のCさんが現れました
Cさん 1回1000円 スキル50点
こうなるともう価格競争になり、相場はどんどん下がっていきます
血みどろの戦いです
コモディティ化とレッドオーシャン
この話はむしろ、家電製品のような商品で考えたほうが分かりやすいです
家電はここ20年位で「どれもみんな同じくらいの製品」に落ち着いてきましたよね
皆がどんぐりの背比べ(コモディティ化)になり、価格競争に陥った結果、日本の家電メーカーは苦しい思いをしています
ちなみにこういう状態をレッドオーシャンと言ったりします
価格競争で皆が血みどろの戦いをしている市場という意味です(市場を海に例えている)
怖い
1日でどのくらい客をさばけるか(労働集約産業)
ちなみに、理美容師のような業界は相場が落ちるとは言え
1カット10円みたいなことにはなりません
なぜなら、全力で客をさばいても1日に対応できる量には限度があるからです
1日で対応できる限界の数 × 客1人あたりの値段 が、生活できる限界の安さを下回ったら、今度は理美容師が他の業界に逃げていきます
結果、その限界の値段付近が相場になります
実際にギリギリです
そういう「1人の理美容師が居たら1日に○人~○人対応できる」みたいな状況を労働集約的と言います
1人の作業量には限界があるんです
労働集約産業の怖いところ
人が居なければ売上が立たない
のですが
人が居れば居るだけ売上が立ちます
1人の理美容師で年間1000万円売り上げるとしたら
2人居れば2000万円、3人なら3000万円、10人なら1億円、100人なら10億円です
どんな職業でもそういうわけではありません
例えば漫画家は売れようが売れまいが大体1人~10人くらいで作ってますよね
それで売上は雀の涙~数十億円まであり得ます
労働集約産業は何が怖いかというと、外部から人を連れて来てしまうところにあります
経営者は人をいっぱい抱えたいのです
1人の理美容師あたり、経営者が100万円儲かるなら、いっぱい人入れたいですよね
でもその結果、業界に人が溢れます
※ちなみにIT業界も受託会社は労働集約産業です
店舗型の労働集約産業に強いリクルートのサービス
「労働集約産業の場合、経営者はスタッフをいっぱい抱えたい」
まではいいですが、当たり前の如く、その分お客さんが必要になります
スタッフ1人につき、1日5人お客さんが必要なら
スタッフを1人増やすごとに、5人お客さんを呼ばなければなりません
つまり営業が大変になります(呼び込み)
しかも面倒くさいことに、ヘアサロンはお店です(店舗型経営)
ネットでバーっと情報をばら撒いてもほとんど意味が無いです
ちゃんと来てくれるような、近場のお客さんを呼ばなければなりません(商圏って言います)
でも、ヘアサロンのようなお店は、商圏がだいぶ狭いです
新聞に載せたら広すぎます、雑誌もテレビもダメです、折込チラシは有りですが関係ない人にも送るのでコストが高いです
うーん困った
というところに来て「ホットペッパー」などのフリーペーパーが登場します
このような媒体はリクルートの強みだったりします
何が大変かといえば、店舗数が尋常じゃなく多いことです
美容院は現在20万店舗以上あるらしく、コンビニの数倍の数です
フリーペーパーのサービス提供会社は、この一店舗一店舗に営業をしなければなりません
何故かといえば簡単で、フリーペーパーの内容が充実してないと読者が満足しないからです
リクルートはそういう課題を、全国に張り巡らされた営業部隊で人海戦術するらしく、これは他社が中々真似しづらいものだと聞いたことがあります(想像はできますね)
営業費が掛かってるから高い→徐々にネット化で安く
「お客さんと理美容室を紐付ける」
のように、消費者とビジネスを仲介するサービスをリボン型ビジネスモデルなんて言ったりしますが(食べログ、リクナビなんかも)
営業でゴリ押ししているリボン型サービスは、もちろん掲載費も高くなってしまいます
その牙城を崩しつつあるのがインターネットで
実際に美容室検索などは多くのサービスが出回っています
とは言えどうしても数が多いので営業部隊が頑張ったほうが情報の質がよく
未だにホットペッパーが強いらしいです
(深い話は知りませんが)
安月給はホットペッパーのせい?
ここまで読んでいただけたら何となく分かるかと思いますがNOです
業界全体の営業費が安くなっても、給料はさほど上がらないでしょう
なぜなら、営業費が安くなって給料が上がればそれだけ新規参入者が増えるからです
(ちなみに今は増えまくって、大体50万人くらい?)
もし何らかの新規サービスで営業費の価格破壊が起きても、潤うのはもって5年くらいではないでしょうか
ただ、1店舗だけで営業費を安くできれば別です
常連のお客さんしか来ないみたいな状況にできるのなら、営業費が丸ごと浮きますし、別に1店舗がどうなろうが業界全体には影響しませんから
ホットペッパーは悪か
擁護するつもりはないですが、これは少しむずかしい話になります
ホットペッパーに限らず、コモディティ化したレッドオーシャンのプラットフォームを作るサービスは多いです(最近だとクラウドソーシングサービス)
何故かといえば、レッドオーシャンの中にいる人達は非常に困っているので、救いの手を差し伸べれば乗ってくれるしお金も払ってくれるからです
十分にお仕事がある人達に「検索サービス作りました!」とか言っても見向きもされませんよね?
つまり、そこにレッドオーシャンがあるからこういったプラットフォームができてしまうわけで、そこを更に血みどろにして戦わせ搾取するのは「酷いなぁ」と思う反面、彼らが居なくなっても何一つ解決するわけでもないのです
その情報を参考にしている読者的には多分マイナスなので、全体としてはマイナスかもしれません
この点は「いやでもホットペッパーが悪いんじゃないの?」という感覚が残るかもしれませんが
そういう方はもう一度Wikipediaを見てみてください
経済復興の過程において、理美容業は比較的安定した収入が得られる職種であったため就業者が増加した。そのため業界は1951年ごろから過当競争に陥り、中小事業者は経営が困難となった
この当時ホットペッパーは無いですよ?
理美容師はどうするべきなのか
これは2つの観点があると思います
- この業界どうすんのよ
- この会社どうするのよ(もしくは、個人どうするのよ)
業界の方はひじょーーうに難しいです
だってレッドオーシャンからの脱出ができるなら、日本の家電メーカーはあれだけ苦しんでいません
アメリカやイギリスなんかは見切りをつけて別の産業に行きました
そのくらい、どうしようもないくらいに難しいです
国が規制するというのもありますが、そうすると「え、床屋の時代に戻るの? もっと自由にやりたいよ」という話になりますので、それも難しいです
更に面倒くさい話になるのが学校の話です
こういう「この職業憧れる。でも儲からない」みたいな業界は学校が栄えます
声優、ゲーム、歌手、芸能etc ここらへんも学校だらけです
学校やったほうが儲かるんです
でも学校やると、どんどん人が供給されて、一向に業界が直りません
だめだ、詰んだ
一旦考えるのやめましょう
個人の方はまだ何とかなります
どうにか工夫して、営業費を抑え、常連を作ればいいんです
って、そんなの全然簡単な話じゃないですが!
でも、業界よりはなんとかなる可能性があります
何とかならなかった負け組は諦めて別の業界に行きましょう、騒いでもムリなものはムリです
業界移動は悔しいですが、社会の流れには逆らえません
QBとか、ああいうのはどうなの?
ちなみに
色々売り方を工夫すればどうにかなると思ってる方は居ると思いますが
QBみたいなのは、従来のビジネスモデルからの引き算で勝負するタイプです
ABCDセット販売10000円!みたいな商品が常識な業界があったとして
いやいやAだけ欲しい人も居るでしょ。Aだけ4000円で売るよ
みたいな商売をする感じです
これは一見上手いんですが、業界全体としては「ABCDセット販売してほしい人」が一番多いわけで、何も解決できていません
むしろ新メニューができたことで全体の売上が下がっています
こういった「ニーズに最適化する」行為は、よーく見ると単なる価格競争の一つでしかなかったりします
(もちろんQB自体は儲かるので、ニッチなところに潜り込むのは会社の戦略としてはありだと思います)
参考になる調査
最近読んでた記事2つ
参考(数年前の話)
最近の調査
https://www.yano.co.jp/press/pdf/1524.pdf
おまけ:IT業界はどうなの?
IT業界は、ヘアサロン業界よりはまだ目があります
なんせ、エンジニア職はブラックだと嫌われています!やったぜ!
そしてプログラミングはほとんどの人にとって意味不明です!ラッキー!
おかげで労働集約産業にしては給料が随分高いです
ですが・・・
>ピーク時8000人に上った要員は、3000~4000人の規模まで順次減らしていく。
気軽に4000人放流とかやめて欲しいですね
エンジニアが60~100万人なので、0.5%くらいでしょうか?
あと、最近「ITベンチャーかっこいい」みたいな雰囲気があってちょっと危ないと感じています
皆さんもっとITはブラックだと喧伝してください
じゃないと給料のピークが今年になるかもしれませんよw
追記
ミニモっていうアプリ広告出てきましたけど結構いいですね
私もヘアサロン業界気になってたんですが、サービスやるにしてもとにかく最初のアプローチが大変そうです
ある程度、地域網羅性がないとユーザー付いてこないですし
追記2
ブコメのスターの並び順、結構まともになってきましたね
昨晩はなんだこれという並び順でした