裁量労働制について、多くの人の意見を見てきましたが、どうにもまだ混乱が多い気がします。かと言って自分が正しく認識しているかと言えば、少しふわっとしている部分もあると思うのでちょっとまとめてみたいと思います。
そう言えば「時間で価値を測る」という点にはIT業界においても批判が多いです。いわゆる「人月」というやつです。「人月商売」で検索するといっぱいでてきます。
いろんな視点がありますね。
ITエンジニアの価値を貶める『人月商売』の功罪 - paiza開発日誌
人月商売はもうやめた方がよいと思う4つの理由 - 株式会社アクシア
ござ先輩はまた違う支店で語っています
人月商売が悪だと思っている、イノセントなあなたへ - GoTheDistance
会社間の見積もりと、個人のお給料は必ずしも同じとは言えませんが、どちらも時間で値段をつけています。要は時間給です。
その時間給を辞める理由とは何なのでしょうか?
時間と労働が比例する状態
こんな仕事があるとします。
例えば1時間に1個商品を製造できる職業はこれでしょう。
これは時間給であることに異論はないはずです。
「いや、自分の仕事は頑張れば単位時間あたりの成果を上げられる!!」
「能率の低いやつが居る!!」
と主張される方がたまに居ますが、それなら報酬を変えればいいだけですよね?
賞与という調整弁
「その時々で成果は変わる!」とか
「必ずしも時間に比例した成果は出ない!」という意見もあると思います。
そのために多くの会社はボーナスというものを用意しています。
「おおよそ時間に比例する」程度ならまったく問題ありません。
裁量労働制はどういう状況か?
Wikipediaにこうあります。
労働時間と成果・業績が必ずしも連動しない職種において適用される
労働時間と成果が連動しない。つまり上図のような状況ではありません。
当事者の能力の大小にも関係ないはずです。
連動しない、ということはつまりこんな感じです。
成果が出るまで長い時間がかかったり、下手したら成果が出なかったり、成果が出ると早かったりするタイプですね。
確かに現在既に対象となっている職業を見ると、時間に対するブレが大きそうです。
- 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
- 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であつてプログラムの設計の基本となるものをいう。(7)において同じ。)の分析又は設計の業務
- 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第4号に規定する放送番組若しくは有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律(昭和26年法律第135号)第2条に規定する有線ラジオ放送若しくは有線テレビジョン放送法(昭和47年法律第114号)第2条第1項に規定する有線テレビジョン放送の放送番組(以下「放送番組」と総称する。)の制作のための取材若しくは編集の業務
- 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
- 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
- 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
- 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
- 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
- ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
- 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
- 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
- 学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
- 公認会計士の業務
- 弁護士の業務
- 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
- 不動産鑑定士の業務
- 弁理士の業務
- 税理士の業務
- 中小企業診断士の業務[1]
本当に時間に依らない??
しかしこの話は罠です。
ほとんどの仕事には繰り返しがあります。
クリエイティブな仕事も、士業も、だいたい繰り返しです。
多くやってると収束していきます。
するとこういうグラフになります。
いわゆる「大数の法則」ですね。
本人の能力に依存して、掛けた時間に比例していきます。
当たり前ですよね? ITでも何でもそうです。 じゃあ時間給でいいですよね。
もっと長期で掛かる仕事の場合
研究職などでは確かに一発当てるかどうか、みたいなケースもあるでしょう。
だとしたらこうなります。
ここで疑問ですが
最初の3年は給料を低く抑えられるのでしょうか?
答えはNOです。
低すぎると人が来ないので、ある程度の額になります。
そして唐突に成果が出たからと言って唐突に給料は上がりません。年俸制なので。
そして、成果が出た後も報酬がその分上がるわけではありません、だって最初の成果が出る前との整合性が取れないじゃないですか。
これ結局時間給じゃないですか? あれ、成果主義ってなんでしたっけ?
成果が出た時に追加で報酬を出せばいいんだ
そうです。それが成果主義です。
つまり、それは賞与です。
一方、裁量労働制は賞与が無いことがほとんどなようです。
あれ、成果主義?
裁量労働制は別に成果主義じゃないですよ
そういえば、誰もそんなこと言ってません。
成果に必ずしも比例しない、というだけです。
そもそも一般的な給与制度の方がよっぽど成果主義的じゃないですか!
裁量労働制で生産性が上がるという勘違い
同じ仕事の量を、短時間で終わらせるようになるため生産性が上がる
という主張がります。
しかし残念ながら話はそう簡単ではありません。
「同じ量の仕事」である保証がどこにもないのです。
仕事は個人プレイではないので、個人の仕事の価値を決めるのはあくまで会社なのです。
これは分かりづらいかもしれません。
例えば
会社がAさんに求める成果の期待値が100、それに対して年俸を1000だとします。
この100と1000の間に明確なレートがありません。
その気になれば120に対し1000とか、200に対し1000というように柔軟に変更できてしまいます。
そんなこと無いと思うでしょうか。
今日やった仕事はいくら分の価値か、あるいは明確に「何を何個」という指標に落とし込めるでしょうか。
時間以外に比例する職業ならOK
時間以外に比例する職業なら、裁量労働制が生きてくると思います。
例えば、一瞬で終わるけどすごくツライ仕事なら、時間給じゃなくて回数がものを言ってきますよね。
でも上でも言いましたが、仕事は繰り返しです。
1年あたりそれが何回発生するかわかれば、時間給でいいじゃないですか。
時短にしたい場合は?
明確に100の価値を生み出したら帰る!
というような制度にしたい場合に使えるように思うかもしれません。
しかし残念ながらそれは現行の制度でも柔軟にできてしまうのです。
労働者に不利な理由
- できたよりできていないことの方が測りやすい
- 往々にして成果は期待値を下回る
そうすると労働者は期待値に達するように長時間働かなければなりません。
未達のときの責任が会社ではなく労働者に行くのです。
フリーランスはどうなっているか?
裁量労働制の思想をモロに反映しているはずのフリーランスですが、最近のITフリーランスは時間給ですし残業代もあります。(悪名高きSESですの話です)
これは語弊がありますが、例えば1ヶ月140時間〜180時間と定め、それを上下超えたら改めて再計算、という方式が取られていることが多いです。
つまりただの上限ありみなし残業制度です。
フリーになってすらこういう制度に落ち着いてる。というのは面白いと思います。
なぜこうなっているかと言えばやはり「労働者に不利」だからです。
成果は往々にして期待値を下回ります。すると安定させるには時間制のほうが良いのです。
裁量労働制は、つまり請負契約に近い
フリーランスでも請負契約をすることがあります。
こちらは未達の場合の責任がフリーランス(労働者)側となります。
瑕疵責任というやつです。
もちろん裁量労働制の場合に瑕疵責任とまでは行きませんが、状況としては似ているでしょう。
ちなみに時間給で働く準委任契約に比べて請負契約の場合は単価が数割高いです。(IT業界だと2,3割くらい違いますかね?)
これは責任の所在が請負側にあるための保険です。
しかし裁量労働制は社員が年俸を決められない状況にあるため非常に不利と言えるでしょう。
まとめ
この制度なんなの?(困惑)
もう忘れましょう。
時間給は悪だ、という論法は大抵間違いだと思います。
問題は大概の場合、成果をきちんと測れていないか、成果に対して賞与が不適切なだけだと思います。
時間給は大抵の場合労働者を守ってくれます。残業はもちろん減らしましょう。それは制度関係ないです。