IT業界で気づいたことをこっそり書くブログ

くすぶってるアプリエンジニアが、日々気づいたことを適当に綴っていきます(受託→ベンチャー→フリー→大企業→ベンチャー→起業)

「AIで消える仕事」のウソ

大学・大学院とAI周辺の研究をしていたため、AIが世の中に浸透するにあたってどういう障害があるかはしょっちゅう考えていました。
それに照らし合わせると、昨今の「AIで消える仕事」には些か言い過ぎ感があると思います。
もちろん、大手シンクタンクの考察などはなかなかなるほどとは思うんですが・・・

 

「消える論」を噛み砕く

消える論は、ほとんどの場合「消えるからその職業は危ない」という意味合いですよね。だからこそ「10年以内に」などと期間を明示しています。

言い方を変えれば、定年まで消えないようなものは論じてもしょうがないです。長く続ける気がない職種でも同様です。
なので、重要なのは「消えるか否か」よりも「いつ消えるか」だと思います。

 

AIに置き換えられない事情

AIへの置き換わりというのはそんな単純な話ではないと思います。

阻害するものは色々あります。

  • 法律の問題、AIの責任をどうするか
  • 法整備の問題、法整備にかかる時間
  • 費用の問題(人間のほうが安い)
  • 職を奪われた人を解雇できるかという問題
  • 割合の問題(置き換えか、効率化か)
  • 感情的な問題(相手が人であって欲しい事情)
  • イレギュラーに対応できないと言う問題(あくまで機械)
  • AI利用ノウハウの問題
  • 社会の慣れの問題
  • ビジネスモデルへの適用の問題
  • 質の向上や、工期の短縮が必ずしも人員削減に繋がらない
  • 因果関係が見えないと利用できない

詳細に書くと長くなるので細かいことは置いておいて、置き換えにはとにかく時間がかかるはずです。
「AIでもできる」では置き換えが起きません。

AIでもできる→AIの方が有効である→法整備、導入テスト→導入→普及→業界再編

このような手続きを経ると考えられます。
もちろん中国やアメリカはこのスピードが速いと思いますが、それでも大抵「極一部の運用」に留まるはずです。普及は中々大変な作業です。

ざっくりですが、上手くいっても「AIでもできる」から5年〜15年は掛かるのではないでしょうか。そう考えると、別に今慌てて何かする必要もないと思います。

 

「機械化で仕事が消える」と同じ

 AIで消える仕事は、つまり機械化・自動化で消える仕事と似たようなものでしょう。
特別な出来事ではないはずです。
これまで数十年で縮小した職業がたくさんあるように、機械の高度化=AIでもまた、一部の職業が縮小するだけです。
(唯一異なるのはシンギュラリティですが、シンギュラリティですらある日突然起こるとは思っていません)

「消えつつある仕事」はもちろんヤバイ

ある日突然AIに置き換わる、というのは非常に稀ですが、既に一部置きかわっていたり、王手が掛かっている職業は消える可能性があるはずです。

例えば自動翻訳や書き起こしなどは、何かブレークスルーが起きただけでほとんどが消えてしまうでしょう。こういったものは既にシステム側でインターフェースやビジネスモデルが確立されているので、あとは精度さえ出ればと言う状態です。

 

「いっそAI側になろう」という思考は危ない

「消す側」「消される側」がいるのであれば、消す側になろうという人が居ると思います。

つまり、AI側に立とうという戦略です。
これは一見よさそうな戦略に見えますが、経験則ではこの思考は非常に危険です。

過去100年を考えてみて下さい。
より多くの機械化、自動化が起こり、旧来の方法を駆逐していきましたが、消した側もその後消されています
例外もあるのですが、おそらく単純に「改善可能な部分は更に改善可能」な問題構造になっているのだと思います。成功したら世の中のもっと頭のいい人が注目し、更に良いもので塗り替えてしまいます。
完璧な方法論だったところで、優秀な人にそれを真似されては意味がありません。
結局三日天下におわることが常です。

これは現代でさえこれは変わっておらず、むしろサイクルが加速している節もあります。
ベンチャーがトップをとっても3年持つかどうかわかりませんよね。勢いがあればあるほど落ちるのも一瞬です。

また、そもそも「AIができること」はほとんどが既にAIモドキにシステム化されているので、まず消え去るのはその現行のシステムサイドなのは自明です。 

念のため言うと、例えばトップを取ることで大きな富を得るようなポジションに居るのなら良いと思います。例えば投資家などのようにです。
しかし普通の労働者として働く場合は、そこで特殊なスキルを磨いてしまうと、他に応用できずキャリアが止まってしまう自体になりかねません。労働者が新規性の高いジャンルに飛び込むのはそれ相応のリスクが生じるはずです(だからこそ、人生に余裕がある優秀な人ほどそういうチャレンジができると思います)

 

おわりに

週刊誌の怪しいまとめ記事程度に思っておいていいのではないでしょうか。
自分の職に対して「AIに消される」と不安がる必要はあまりないでしょう。それが始まってから行動しても遅くないと思います。
騒ぐのが大好きな人たちの声に騙されないようにしたいところです。

むしろそれよりなら、如何にしてAIを利用して同業者を出し抜くか考えたほうが建設的だと思います。そういう「AIでできること」のような記事がもっと増えると良いと思うんですけどね。