これは数年前に某社を退職するか悩んだ際に考えたことです。
その会社のエンジニアにおける状況で考えたんですが、ほとんどの仕事に当てはまる気がします。というかたぶん組織論の一種になるので、仕事以外でも似た事象は発生しそうです。
- シンプルな例え話
- 行動パターン
- 価値観の説得は難しい
- 詰んだ\(^o^)/
- 正しいと思うことを押し通すのは良いことか?
- 最適解その1
- 仕事で重要なのは真実ではなく、上長の価値観
- 現実ではもっと評価軸が多く複雑
- 別解:そんな価値観の奴ら、自ら切ってしまえ!
- 最適解その2:昇進する
- 最適解その3:真実究明を組織で行う
- 最適解その4:真実究明を業界で行う
- 最適解その5:依頼者を相手にしない
- 別解: 自分の価値観を大事にして、他は無視
- まとめ?
- おわりに
シンプルな例え話
ある会社の製品の評価軸が2つあるとします。
- 製品の硬さ
- 製品の色の良さ
しかし、実際のところ売上に寄与しているのは「製品の硬さ」のみで、「製品の色の良さ」は寄与していないという真実があったとします。
自分はその事に気づいていましたが、会社は気づいていませんでした。
さて、その会社から同様の製品を作ってくれと言われたとき、色はどうしますか?
(これは外注という目線でも、社員という目線でも大丈夫です)
行動パターン
- 色は事業に寄与しないから色付けは手を抜く
- 依頼者(上司)の価値観に合わせて、色付けを頑張る
- 何に対しても妥協せず全部頑張る
- あなたの色に対する認識は間違っていると説得し落とし所を探す
このとき、1は依頼者に対しての裏切りであり、2,3は事業に対しての裏切りです。
こういうのって生きてればちょくちょくありますよね。親や先生が間違ってること言っていても、それに従わざるを得ない、みたいな。
問題は4です。
価値観の説得は難しい
状況次第で説得可能な場合もありますが、大抵の場合は難しいです。
- 依頼者の経験的に色が重要だと結論づけた
- 依頼者の上司が色が重要だと言っている
- 慣例
- 他の職人の中にも色が大事だという人がいる
- 世間一般でも色は大事だと言う人がいる
- エビデンスを用意できない(普通公開されない)
- 自分が間違っている可能性もある
- 色付け職人がいる
依頼者1人の価値観ではない可能性が高い
そうなると組織全体に対して説得しなければならないわけで、それは無理ゲーに近いです。
自分が間違っている可能性
事業というのは摩訶不思議で、何に対しても確証というのは中々得られないものです。それが自分の会社でなければなおさらでしょう。
たとえば、売上には寄与されていないようで、顧客満足度には影響しているとか。ある一定の品質を割り込むと影響が出るとか、ある一定の品質を超えると影響が出るとか。
更に厄介なパターンは、色の品質を上げていることで、有能な職人が採用できるという、採用面に影響しているとか。職人のモチベーションに影響していて、手を抜くと硬さの方にも影響が出てしまうとか。
そういうのを考えると慣例でやってしまいますよね。
専門の職人がいる場合
その場合、依頼者は安易に説得されるわけには行かないでしょう。
こうなるともはや雇用問題です。
説得できるのはコンサルタント
もちろん影響度合いによって説得できる対象もありますが、ある程度大きな価値観となると、組織全体の共通認識になっているケースが多いでしょうから、説得するにはコンサルタントのような働きかけをしなければなりません。
今、仕事を依頼されているわけですが、そこでそういうアプローチをするか?と言う話になります。つべこべ言わず仕上げたほうが早いでしょうから、そんなアプローチをしてきたら疎まれること間違いなしです。
詰んだ\(^o^)/
これで詰んだと思います。
依頼者に対しての裏切りを選択するか、事業に対しての裏切りを選択するか、無理とわかって説得するか、しかありません。
正しいと思うことを押し通すのは良いことか?
依頼者に対して裏切り、事業にプラスになるような行動をすることは果たして良いのか?と言う話です。(これ1個だけで重いテーマなんですが)
漫画なんかだとこれが一番好まれる選択だと思いますが、中々そううまく行きません。
上手く行かない理由を書きます。
事業が失敗したら依頼者は真実に気づくか?
NOです。
「色合いが悪かったから事業が失敗したんだ」という結論になります。
人間は失敗した時に自分の価値観を改めるより、自分の価値観で失敗を説明しようとします。
毒を薬だと信じている人が、毒を飲んで体調を崩したら「これは毒だ」とならず「飲む量が足りなかったんだ」となります。
もちろんその対象をどれだけ信じているかに依りますが、仕事における価値観は大抵強いものです。
そもそも事業は失敗しない
「間違っても成功するし、正しくても失敗する法則」があります。(この話、ずっと前から書こうと思ってまだ書いていないんですが)
追記:書きました
簡単に言えば大勢に影響しないケースが多いわけです。
今回の例で言えば、色に力を入れようが手を抜こうが、変わるのは掛かった経費くらいのもので、誤差の範囲になってしまいます。
だからそこで価値観の変容は起きません。
※そういう意味では、安定した大事業に居るほど行動が結果に影響しなくなるので真相から遠ざかります。一手間違ったら死ぬ事業に居るほど真相に近づけます。が、もちろん職としてはまるで安定しません。
依頼者を裏切ったらどうなるか?
「真実を教えてあげたんだから感謝されるだろう」とかいう発想はげろ甘です。基本評価が落ちるか、外注なら切られるだけなので、余計に話を聞いてくれなくなるでしょう。
依頼者には色んな人が説得してくる
ある人は「色は関係ありません!」と言うし、他の人は「色が重要です!」と言ってきます。依頼者は基本的に職人ではないので、そのどれかを採用するしかありません。
これは信用問題です。
最適解その1
まとめると
依頼者(上司)に対しての裏切り
→ 評価が落ちる、依頼者が真実にたどり着くのは望み薄
説得する
→ 無理
なので、事業に対して裏切って、依頼者(上司)の言うことを聞くが最適解です。
今やってることがどんなに間違ってると思っても、上の価値観に従って行動するのが一番賢い選択なようです。
クソゲーでしょ?
仕事で重要なのは真実ではなく、上長の価値観
別の視点から考えてみると、結局こういう結論になります。
この結論は誰もが嫌がるでしょうが、自営業になってみると案外しっくりきます。自営業であればここの上長=依頼者はお客さんになるわけです。
お客さんの事業も大事だけど、お客さんの満足度も大事だよね。と考えればしっくり来ると思います。
例えば自分が美容師だとして、お客さんがかなり変な、10人が見たら8人がオカシイと思える髪型を指定してきたとします。その時に「それはオカシイからやめましょう!」と言うのは半分正解で半分間違いなのではないでしょうか。依頼者の価値観・要望はたとえ間違っていたとしても無視できません。
もちろん、依頼者が事業を成功させたいと切に願っていれば少し話が変わります。その時はダメ元で説得は試みても良いかもしれません。大体失敗しますけど。
現実ではもっと評価軸が多く複雑
今回は例え話で「色」「硬さ」というわかりやすい例にしましたが、実際はもっと遥かに多い評価軸があり、さらに良い/悪いで語りにくいものも多いです。
しかも依頼者がその評価軸をすべて認識していないケースもありますし、何がどの程度影響するかなんて、専門家でなければわからないはずです。
別解:そんな価値観の奴ら、自ら切ってしまえ!
さて、こういう結論に達した人はアラサーあたりで結構いると思います。
上手く自分と同じ価値観・思想の人たちと合流できれば仕事はしやすくなるはずですから、この選択肢は間違っていません。
ただし事態はそれほど甘くない事が多いです。
事業というものはそもそも難しく無理ゲーなため、どこへ行っても間違い・勘違いというのは大量に存在します。
どこへ行っても似たような状況に陥るわけです。
最適解その2:昇進する
GoogleのTeam Geekという本にも「安全な位置まで昇進しろ」的なことが書いていましたが、自分の価値観が正しいと信じているなら、自分が決定者になるところまで昇進すればいいわけです。
ですがこれもちょっと難ありです。
- 昇進するまでは上司の価値観に沿わなきゃならない
- 昇進しても異なる価値観を持った人は存在する
- 昇進すると、自分の分からない評価軸に対してジャッジしなきゃならない
何か解決しているようで、俯瞰で見ると大して変わっていないんです。
そもそも上で出てきた依頼者(上司)も良かれと思ってやっていたわけですから。総合的に自分と元上司のどちらが良いパフォーマンスを出すかはわかりません。
最適解その3:真実究明を組織で行う
何が事業にとって正しいのかというのを組織で研究する仕組みがあれば大分マシになると思います。ただこれも難ありです。
- 非常に頭を使う
- コストを使う
- 研究できるだけの過去の実績や記録が必要
- 結論は受け入れなければならない、全ての結論が自分の意見と合うとは限らない
- そもそも大半は興味がない(特に事業に対して)
実際やれている組織は滅多に無いです。
最近話題に「心理的安全性」とかはここらへんの話ですね。
最適解その4:真実究明を業界で行う
これが理想的だと思います。
皆が拠り所にしている価値観というのは、大体が偉い人・インフルエンサーの言説の受け売りだったりします。だとすれば、そういう人たちが正しく研究し、ドンピシャで正解を言ってくれれば皆迷わずに済みます。
これは業界によってかなり差があると思います。
挑む対象にもよります。結果がわかりやすい領域ほど楽です。
ITはその意味では、プロダクトや事業の評価が若干しづらいという点で難ありと言われていますが、情報交換は活発です。ただWeb系においては「偉い人・インフルエンサー」というのが民主的に選ばれている感じがあるので、皆の興味の向かない範囲は甘いという印象があります。
この最適解の問題は、自分1人でどうこうできないということです。
自分自身ががんばって真実にたどり着いて、登壇して布教するというのは一つのやり方ではありますが、例えば企業毎の事情などは汲み取れないので難しいところです。
自社内で研究して皆に発表するという手ももちろんあります。
かなり地道な活動になりますが、真面目に考えたらそれが一番なのかもしれません。
実際真面目にそうやってる方はいらっしゃいますね。
最適解その5:依頼者を相手にしない
市場や、自然を相手にすれば良いわけです。
市場や自然は非常に厳しいですが、評価は限りなく真摯です。一切綺麗事なく、やった通りの結果を返します。
この方法は割と究極的だと思っているんですが、まず誰でもできるわけじゃありません。エンジニアなら自分のサービスを持たないと難しいです。
しかも自分自身について解決しても社会全体で見れば大して解決していません。「仕事はクソゲー」というのは変わってないわけです。
別解: 自分の価値観を大事にして、他は無視
なんかこれで良い気がしてきました。
まとめ?
よく視座を高く持て、経営目線を持てなんて言ったりしますが、あれは正しいんでしょうか?
私はいろんな視座・視点で考えるタイプですが、あーだこーだ考えた結果、上記のような結論に至りました。最近は「別解:自分の価値観を大事にして、他は無視」でいい気がしてます。その方が楽です。
他視点で考えるのは癖なのでやめませんが。
とは言え私はそっちの手段を取っていません。
もう一つのやり方としては「極力柔軟に対応する」です。依頼者の価値観に合わせる方です。いろんな価値観・基準・考え方を理解しないといけないので面倒くさいですが、1個の価値観に依存するのは個人的に怖いです。常にどれも間違ってる気がしています。
ちなみにこの話は組織における構造的問題なんだと思います。
今回は書きませんが、この構造を「自分ー上司ー事業」じゃなくて「自分ー上司ー上司ー上司ー事業」にしたり、「部下ー自分ー上司ー事業」にして考えるともう発狂するようなめんどくさい話になります。
何が正しい行動なのかは結局トレードオフです。
あと、出資者なのか労働者なのかというのも絡んできます。
究極的に言えば、労働者なんて穴掘って埋めても給料はもらえる素晴らしいものなので、真実とか正しさを追求するべきは出資者であるはずです。
「いや、自分は労働者だけど真実を知りたいんだ」というのは別に構わないんですが、依頼者(上司)はそう思ってないかもしれないし、彼もおそらく労働者ですから、真実がどうとか関係ないんです。だから「善意で真実を教えてあげよう」は案外正しい行動とは言えません。「こんな穴掘り作業は間違っている!」みたいな。
より正確に対処するなら、経営者に話をする際と分けるべきなのかもしれません。
じゃあ出資者に対しては真実ベースで語れるのかと言えばそうでもなかったりします。一般消費者と同じです。やりたいように金を使ってるんですから、まずはその人の意志を聞かないと何とも言えません。
この世はエゴイスティックですね。
おわりに
仕事論というのはアラサーあたりで一回ハマると思います。私もかなりハマりました。
でもアレです。たけしの挑戦状的に言えば
「こんなげーむにまじになっちゃってどうするの?」です。
第一に生き残ること、第二に自分の気になることを追求した方が幸せなんじゃないかと思います。
自分が出資者・経営者になったら、改めてこの問題とまた向き合う時が来ると思います。